タクシーと弁護士(日経新聞社説への批判)

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 本日の日経新聞朝刊に、「点検 タクシー再規制」との記事が掲載されていました。

 

 記事によると、タクシー業界に関し、次のような内容が報道されていました。

① タクシー業界は、長い間地域内のタクシー台数を厳しく規制してきたが、小泉内閣の規制緩和により、台数が増えることになった。

② しかしタクシードライバーの待遇が低下し、その不満を解消するためにタクシー会社が値上げをし、それが客離れに繋がるという悪循環が起きた。

③ タクシー業界は「規制緩和が間違っていた」と規制強化を求め、国交省は政策転換をし、再規制を考慮し始めている。 

 

  これはさぞかし、タクシーが激増したのだろうと思って、よく記事を読んでみると、全国の法人タクシーの台数は、2006年度は22万2千台で、規制緩和直前の2001年度に比べて8%の増加だということでした。5年間で8%の増加でも、顧客数(仕事の総量)が変わらないので、タクシードライバーの待遇は、悪化の一途だそうです。

 

 それでは、弁護士で見てみるとどうでしょうか。

 弁護士に関しても、規制緩和の影響を受けた司法改革により、増員がなされてきました。2006年度の弁護士数は、日弁連のグラフから見ると、2001年度は約18000人弱です。2006年度は22021人、2008年度は25062人です。

 2001年→2006年まで約22.3%の増加

 2001年→2008年まで約39.2%の増加

 既にタクシー業界の3~5倍近い増加率です。 

 

 では弁護士の仕事が増えたのかということですが、司法統計によると、

 地方裁判所が受理した民事・行政事件総数ですが、2001年度は1,182,152件、2006年度は911,006件です。破産件数については、2001年度168,811件、2006年度174,861件でほぼ横ばいです。

 地裁民事事件に限れば、2001年度→2006年度まで22.9%の減少です。

 

 日本経済新聞が経済のことを理解して記事を書いているのであれば、これがどういう意味なのか理解できるはずです。

 

 ところが、本日の日経新聞社説は、「法曹増員のペースを落とすな」でした。

 いつものごとく、法曹増員問題に反対する弁護士は「弁護士が増加して、割の良い仕事が奪い合いになる懸念」が理由であろうと、勝手な推測をし、人口の少ない地方都市での事務所開業や、刑事事件の国選弁護、民事事件の法律扶助など「割の良くない」分野では、弁護士が足りないのが実情である、というのがその理由であると根拠づけます。

 

 しかし、上記の仕事(特に国選弁護・少年扶助事件など)は、私のような経営者弁護士にとって見れば、「割の良くない仕事」ではなく、「完全に赤字の仕事」なのです。やればやるだけ、時間をかければかけるだけ、損をする分野です。

 「割が良くなくても、黒字になる」仕事であれば、弁護士の使命に鑑みこの分野の仕事をする人はたくさんいるはずです。しかし、責任は重いのに時間をかけて真面目にやるだけ赤字になっていく仕事を、誰が進んでするのでしょうか。日経新聞の社説氏は弁護士が金のなる木でも持っているか、生活を誰かが保証してくれているとでも思っているのでしょうか。

 

 もし本当に、日経新聞の社説氏が上記の仕事を、「単に割に合わない仕事(黒字の仕事)」だとお思いであれば、一度経営者として毎月100万円以上の事務所経費を負担しながら、上記の仕事だけで法律事務所を維持して見せて下さい。断言しますが、真面目に仕事をしていたら絶対に事務所の維持は不可能です。

 

 ボランティアだって、赤字ではありません。そのボランティアをするために経費がかかっているわけでもないし、業務時間外の自由時間を使ってやるモノだからです。

 ところが弁護士の仕事は法廷での活動も不可避的に含まれます。当然経費をかけて産み出している業務時間内にやらざるを得ません。国選弁護だから自由時間にやらせてくれとは言えないのです。

 

  経営者弁護士にとって赤字分野の仕事であることを、きちんと取材もせずに「割の良くない仕事(黒字だがその部分が少ない仕事)」と断言する日経新聞の社説氏は、事実を確認せずに全くの思いこみだけで社説を書かれたか、 または、なんとしても法曹増員のペースを落としたくない誰かにおもねっているか、いずれかとしか考えられません。

 

 日経新聞の社説氏が、そこまで、弁護士激増による司法サービスの促進を早く実現させたい(若しくは、何の根拠もなく、そのような弁護士激増を国民が望んでいると強弁を続ける)のであれば、口先だけで非難するのではなく、日経新聞が日弁連に対して弁護士過疎対策に使うよう寄付したり、自ら弁護士を雇用して地方に派遣すれば良いのではないですか。

 

 私達の納めた弁護士会費から弁護士過疎対策に相当多額の費用を使ってきた日弁連の方針では、ご不満なのでしょうから。