余計なお世話??~その3

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 ACCJは、日弁連の緊急提言に対して、「司法試験の合格ラインを下げることが新規法曹の質を低下させたという点についてデータがない。」と批判し、さらに「ACCJは現在の法曹候補者の質は大学院レベルの教育を追加したため向上したと考えている。」ということのようです。

 

 司法試験の合格者を増やすために、合格ラインを下げると、当然レベルダウンした合格者が増加することは証明するまでもないでしょう。100mを11秒以内で走れる人間をランダムに集めたリレーのチームを作るのと、100mを16秒以内で走れる人間をランダムに集めたリレーチームとではどちらが速いかは、明白でしょう。
 さらに司法試験委員会で公表されている新司法試験の採点雑感を見ると、基本ができていない答案が多いことが毎度のごとく指摘されています。以前から指摘してきた司法研修所教官の意見も合格者の質の低下を示唆しています。法曹としての最低限の資質を図る2回試験の不合格者の増大や、これまで沈黙を守ってきた最高裁が2回試験における不合格者のとんでもない内容の答案を開示したこと、近時の裁判官が弁護士の質が低下した旨を非公式に寄稿したなどの情報に鑑みると、レベルダウンした法律実務家が世に出始めており、法務省・最高裁が懸念を感じるレベルまで至ってきていることは明らかです。

 

 私自身の経験からいえば、受験者の上位1500番くらいまでは、結構早く到達できたものの、そこから合格に至るまでが大変でした。受験者のうち上位の方は、合格者とやむを得ず受験をあきらめた少数の方しか減少せずに再受験されますし、優秀な若手もどんどん成績を伸ばしてくるので、1500番くらいから合格レベルまでが本当に大変な競争でした。しかし逆に、その大変な競争にさらされたからこそ、基礎的知識も、論理構成力も、かなりしっかり身につけなければ合格できなかったと思います。私の感覚から言えば、仮に1500番くらいを取れる実力しかないときに運良く合格していても、(自分がいちばんよく分かりますが)基礎的知識もしっかりしていない状態だったので、それで実務家を名乗るなんて、今考えると相当恐ろしい状況だったように思います。
 今は、法科大学院を卒業しても3回受験して失敗すれば、失格になるので、受験者集団に成績優秀な方が残りにくい制度になっています。つまり新司法試験は過度な競争が起こりにくい状況にしてあるのです。さらに合格者が2000人を超えるのですから、基礎的知識に不安があっても合格者の数を合わせるために相当数の方が合格されている可能性があります。昨年法曹人口問題PTで、新司法試験を受験された方にお話を聞く機会がありましたが、「新司法試験において試験問題を完全に理解して解答しているのは、おそらく成績上位1~2割くらいの受験生だけで、極論すれば、私を含めて、他の受験生は問題の意味を完全に理解できないまま、それらしいことを書いているのではないかと思う」という感想を述べていた方がおられました。

 

 確かにACCJが言うように、質の低下を示す直接的・客観的なデータがあるのか、出してみろ、といわれると困難があるとは思います。質の低下を100m走のように客観的に数値化することはおそらく不可能だからです。
 しかし、2回試験不合格者の増大や最高裁のあまりにもひどい不合格答案の開示、司法研修所教官や新司法試験採点者から基本的理解が欠けているという指摘がひんぱんになされるなど、質の低下を意味する数多くの指摘がある中で、逆にACCJが言うように法曹候補者の質が向上したという客観的データはあるのでしょうか。それをACCJは示すことができるのでしょうか。

 

 ACCJは「受験予備校よりも法科大学院が有益であるということは証明可能だ」と主張するようですが、それは論点のすり替えです。問題は新人法曹の質がどうかという問題であって、新人法曹教育制度の問題ではないからです。つまり、同じ自動車を手作業で組み立てるA社と、組み立てを自動化しているB社があるとします。この場合、どちらの自動車が優れているかは、出来上がってきた自動車同士を比較する他ありません。製造過程が自動化されているからB社製の自動車が優れていると主張しても何も意味がないということなのです。
 すなわちACCJがここで証明すべきは、法科大学院制度を経て法曹になった者が、(個々人ではなく)全体として、旧制度の下で法曹になった者よりも優秀か同程度であるということであるはずです。その証明は、私は無理だと思います。できるものならやって頂きたいし、客観的に証明してみせるのが、日弁連の主張を批判して証拠を出してみろと凄んでいる、ACCJの義務というべきでしょう。

 

 また、ACCJが法科大学院によって法曹候補者の質が向上していると主張するのであれば、ACCJに加盟する米国企業は、優秀なんだから、新人弁護士や法科大学院卒業者を、さぞかし沢山就職させているはずでしょう。しかし、その点については、ACCJはなんら触れておりません。この点も明らかにして主張して頂きたいように思います。
 仮に、ACCJが新人弁護士や法科大学院卒業者を多数就職させておらず、その言い訳として、ACCJ加盟企業としては日本人法律家を必要としていないという理由が、もしACCJ側から出されるとするならば、なぜ、ACCJは加盟企業となんら関係のない法曹人口に関して、「法曹の増加は司法改革において決定的に重要である」などと主張するのか、という根本問題が生じます。

 

(続く)