「民法改正の真実」 鈴木仁志著(講談社)

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 鈴木仁志弁護士の「民法改正の真実」(講談社)を読んでいる。


 非常に面白い。


 私も法曹の端くれとして、民法に携わってはいるものの、実は、どうして民法改正が必要なのか、さっぱりわからずにいた。確か、大阪弁護士会の常議員会で、民法改正に関する弁護士会の意見書を決議するときに、「改正を必要とする立法事実があるのか」と質問したことがあるが、「立法事実はない」という回答だったようにも記憶している。


 立法事実がないということは簡単にいえば、民法を改正する必要性がないということである。どうして改正の必要性のないものを改正するという話になっているのだろうか。


 私も、大学や大学院で講義している際に、学生に対する雑談として民法改正に触れ、立法事実がないのに民法改正をしようとしているのは、学者の自己満足ではないかと冗談で話したことがある。


 つまり、こうである。


 民法学者として最高峰ともいうべき我妻榮が構築した民法理論、体系についてこれを超えるだけの業績を上げた民法学者は見当たらない(例えば、私が司法修習中に見学した民事部の裁判官室には必ず我妻榮の民法講義~岩波書店刊~が常備してあった。このように、実務界に於いても我妻民法の影響は巨大なものである。)。 つまり、今の民法学者はどうあがいても、40年前に亡くなった巨星・我妻榮に対して正面からはかなわない。そうとなれば、自分が民法の第一人者として歴史に名を残すためには、我妻の構築した民法理論・体系と違うところで勝負するしかない。それなら、我妻が構築した民法理論の前提たる民法自体を変えてしまえば良いのではないか、そうなれば我妻の影響のない新民法の下で、自らが第一人者となることも可能であるし、新民法制定に尽力した者としても名前が残る。
 そうとでも考えないと、民法改正を必要とする理由もないのに、敢えて一部の学者が膨大な時間と労力をかけて民法改正をするわけがないのではないか。


 あくまで冗談だと前置きしてであるが、概ねこのような雑談をしたことがある。
 学生の反応は、そんな、わがままな子供のようなことをエライ学者の先生がするはずはないんじゃないの、というものであったし、私も冗談なので深く考えて話したというわけでもなかった。


 ただ、「民法改正の真実」を読むと、上記の雑談での冗談が、冗談とは言い切れない可能性がどうやらあるかもしれない。


 本書の著者である鈴木仁志弁護士は、その著書「司法占領」(講談社文庫)で、司法改革の問題点を指摘し、荒唐無稽な指摘といわれたらしい。しかし、鈴木弁護士が指摘した問題点のうちいくつかは、そんな問題は生じない(考える必要はない)という有識者の無責任な判断に反して、不幸にも現実化してしまった。脳天気な有識者よりも、よほど先を見通す目をお持ちの方のようである。


 その著者がまた、警鐘を、しかも大きな音で鳴らしているのだ。


 本当に民法改正を行ってしまって良いのか、少なくとも法曹実務家の方々には、本書を是非読んで頂きたいと強く願う。