ロースクールと法曹の未来を創る会の要請文について~1

 ロースクールと法曹の未来を創る会代表理事の久保利英明弁護士が、本年7月20日に法務大臣と司法試験委員会委員長宛に、「司法試験合格者決定についての要請」という文書を発したようだ。

 久保利英明弁護士は、大宮法科大学院大学の創設に関わり、大宮法科大学院大学と大宮法科大学院大学が吸収された後の桐蔭法科大学院で、ずっと教授の座にあった人物であり、力いっぱい法科大学院側の立場の人間である。

 その久保利弁護士が代表理事を務める「ロースクールと法曹の未来を創る会」の上記要請は、平たくいえば、ただでさえ合格者の質の低下が叫ばれている司法試験において、平成29年度の司法試験合格者を昨年の1583名から、2100人程度にまで増加しろというものである。

その提言について、思いつくまま、私なりに突っ込みを入れてみたい。
思いつくまま書くため、雑駁な突っ込みになることはご容赦頂きたい。


(以下要請文より引用)

法務大臣 金 田 勝 年 殿
司法試験委員会委員長 神 田 秀 樹 殿
ロースクールと法曹の未来を創る会
代 表 理 事 久 保 利 英 明
「司法試験の合格者決定についての要請」

第1 要請の趣旨
 平成29年度の司法試験合格者の決定にあたっては、少なくとも、2100名程度を合格させるよう要請する。

→平成29年度の司法試験短答式試験受験者数は途中退席者を除いて5929名。そのうち、合格点である108点以上の者は3937人である。ちなみに平均点は125.4点。下位27.35%に入らなければ合格できる、つまり4人に1人しか落ちない試験である。

 そのうち、平均点を超える126点以上を取った者は合計1840名であり、2100名の合格者を出すとなれば短答式試験の平均点以下の者まで合格させなくてはならない。もちろん受験生のレベルが極めて高いのであればそれでも構わないのだが、果たしてそうなのか。

 私は旧司法試験時代しか知らないが、大体短答式試験の合格点は60点満点で48~45点あたりだったように思う。もちろん平均点をかなり上回る得点を挙げなければ合格できなかった。私の経験からいえば、短答式試験はきちんと勉強して、基礎的知識を固めてさえいれば得点できる試験である。しかも現行司法試験の短答式試験科目も憲民刑になり、旧司法試験と同じになってきている。もちろん、論文式試験と同時に行われるため体力的に大変だという面もあるが、それでもきちんとした基礎的知識があれば7~8割は取れなければならない試験だと思われる。

 短答式試験が旧司法試験から大幅に難化したとの情報は聞いていないから、仮に同程度の難易度と考えた場合、かなり甘く見積もっても7割程度の得点が取れないと、法曹になる基礎的知識は不足しているといってもいいだろう。

 仮に基礎的知識の合格点が短答式で7割の得点であると考えると131.25点だから、131点と考えても平成29年度の受験者では1256名程度しか、基礎的知識の合格者はいないことになる。

 そこに2100名の合格者を出すと、単純に考えれば約900名の基礎的知識に問題のある法曹が生まれる可能性があるということだ。

 もちろん論文試験で選抜機能が働けばよいのだが、3937名で争われる論文式試験となるので、2100名合格させるとなると、下位47%に入らなければ合格ということになってしまう。これでは選抜機能は果たせないだろう。

 確かに、新自由主義者のように知識不足でもなんでも良いから資格を与えて競争させれば良い弁護士が残る、という脳天気な発想もあるかも知れないが、それは机上の空論だ。そもそも一般の人には弁護士の力量は見抜けない。したがって、選ぶ側が良し悪しが分からない以上、判断のしようがないので全く競争原理が働かない。また、藪弁護士が弁護過誤を頻発させて退場するにあたっても、退場するまでに相当の被害が出るだろう。さらに、幾人かの藪弁護士が弁護過誤を起こして退場しても、知識不足でも資格を与える前提だから、それを上回る藪弁護士予備軍が毎年追加されてくることになり、淘汰なんぞいつまで経っても終わるはずがないのである。

 この点、大企業・お金持ちは情報もお金もあるから良い弁護士を選べる。ところが、一般の人達はそうではない。あれだけ弁護士があふれているアメリカでも同じ問題がある、という指摘が司法制度改革審議会でもなされていた。

 お金持ちでない一般の人達も、安心して弁護士に依頼できるためには、やはり弁護士資格を有する者にある程度の実力がないと困るのである。(医師免許とパラレルにお考え頂ければ、理解してもらいやすいかもしれない。知識不足でもなんでも良いから大量に医師免許を与えろとは誰もいわないだろう。)

 もちろん、久保利弁護士もそれくらいは分かっているだろうから、知識不足の人間も含めて2100人も合格させろという要請を敢えてするのは、おそらく法科大学院制度維持のための要請だと見るべきだろう。

 しかし、そもそもは国民のために優秀で頼りがいのある法曹を養成するための制度改革だったはずだ。法科大学院が生き残るために司法試験合格者を増加させても、結果的に国民の不利益になるのであれば、その主張は本末転倒なのである。

 ただでさえ税金食いの法科大学院を維持するために、知識不足の人間にもどんどん法曹資格を与えるのがよいのか、法科大学院が維持できなくても国民が本当に頼れる、実力のある人にしか資格を与えるべきではないのか、どちらが良いのかは最終的には国民が決めることだ。

 いずれにしても法科大学院の利益を優先するべき場面ではないように思う。

(つづく)