いわゆる谷間世代の弁護士会費減額問題~その2

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(続き)

 大阪弁護士会では関係委員会に意見照会している。しかし、肝心の司法修習費用給費制対策緊急本部の答申が、この谷間世代会費減額制度案について反対しているのだ。

 同本部の反対意見は、概ね①給費制・給付金の意義と運動の観点から、②弁護士会内と日弁連内に混乱をきたす可能性、③統一修習の理念から、反対の結論を裏付けている。

 ①を私なりに要約すると、こういうことのようだ。つまり、給費制は国家が責任を持って法曹を養成する制度の根幹部分の一つであり、その理念から、貸与制では問題があるので給費制の復活運動を行ってきた。これに対して、貸与制で問題があるなら高額な弁護士会費を安くすればいいとの反論もあり、その無理解な発言との戦いを乗り越えてようやく、給付金制度が実現したのだ。しかし、給付金制度は金額も未だ不十分であるばかりか、貸与制も併存しており、給付金の額も法律に定められているわけではなく、いつ貸与制に近い制度に戻されてもおかしくない状況にあるといえなくもない。給費制のように確固たる制度として確立しているとはいえない状況だともいえよう。
 また、現在でも日弁連・弁護士会は給付金の増額と谷間世代の対応策を国家に求めているところなのだ。
 ところが、今回のような谷間世代の会費減額案を実行すれば、法曹養成は国家の責任だから谷間世代にも対応すべきだとの主張に矛盾を生じかねないばかりか、貸与制論者に「弁護士会費を取りすぎているから貸与制が問題視されているだけであって、高額な弁護士会費を下げれば貸与制でも良いはずだ」との論拠を与えかねない。最悪の場合、給付金制度の縮小等にもつながりかねない危険をはらんでいる可能性もあるのだ。

②についてもたくさんの理由があるが、主なものを私なりにあげると、

・昨今の厳しい状況から、弁護士会費減額を求めているのは若手世代に限らない。

・谷間世代以外の会員からの不満が醸成されかねない。

・国の責任をどうして弁護士会費で尻ぬぐいしなければならないのか筋が通らない。

・病気、出産・育児等で会費免除を受けている会員には、効果がまるでない。

・71期以降も不十分な給付金であり、その配慮を求められたらどうするのか。

・各弁護士会がそれぞれ独自に会費減額を実行するなら各弁護士会で不公平が生じ、減額制度のない弁護士会に所属する谷間世代会員らが、不満・不公平感を抱く可能性がある。

・日弁連会費の減額は限界があり、僅かな金額にしかならないから効果が低いだけではなく、その制度構築過程で様々な意見が噴出し日弁連の求心力を大きく減殺する懸念がある。
などである。

 ③については、谷間世代といえども、裁判官・検察官になった者や、法曹にならなかった者もいるなど様々で、そのうち弁護士会一般会費減額案は、貸与世代の者のうち貸与金返還期間中、弁護士会に所属している者だけを対象とすることになるから、今後、国が裁判官・検察官になったものに対して優遇策をとる口実になりかねない。そうなれば統一修習制度をぐらつかせる要因になりかねない。等の理由である。

 結論的には、問題がある思いつきであるばかりか、給費制緊急対策本部の運動にも悪影響を及ぼしかねないとする意見であろう。


 私見だが、谷間世代のために尽力してきた、給費制緊急対策本部が反対している以上、それだけで、今回の減額案は実行すべきではないように思う。

 もちろん小原会長は聡明な方であり、その小原会長が率いる大阪弁護士会執行部は、このような状況も当然分かっていて、この案を常議員会にかけたはずだ。

 だとすれば、その狙いは単純に谷間世代の不公平是正というだけではないのかもしれない。


 ここからは、全く根拠のない完全に穿った見方、おとぎ話になっていくのだが、どんどん想像を巡らせると次のようにも考えられるかもしれない。すなわち、

 ①給費制の復活や給付金の増額はもう不可能と考え、現状での手当てを優先しようと考えた?

 ②東京などでは谷間世代に対する救済策として会館特別会費の減額40~50万円程度を実行しているようだし、近畿でも京都弁護士会が救済策を実施しているようなので、大阪弁護士会として放置することは執行部のプライドが許さなかった?

 ③谷間世代の弁護士数は大阪弁護士会では約20%であり、将来の(主流派)執行部支持のための布石を打った?

 ④これは完全なおとぎ話になるのだが、弁護士会が谷間世代の救済に当たるようになれば、国家としてはいくら谷間世代から不公平是正を求められ、世論が同調しても、弁護士会が既に救済しているのだから救済不要、と言いやすくなる。そこまで国が大問題として捉えているのか疑問があるし、大人の事情は分からないが、何らかの条件と引き替えに、谷間世代の不満を抑えるような話が出たとも限らない。東京3会と大阪を合わせれば弁護士数のほぼ6割になるから、大規模会の谷間世代の不満を抑えれば、過半数は抑えられる。現在の日弁連会長である中本先生は小原会長と同じ大阪弁護士会の同一会派の盟友であったはずだから、そんなお話しがあったのかもしれない?

 おそらく谷間世代は不公平感をもっている人もいるだろう。私も制度に振り回された経験があるから、その不公平感はかなり切実に分かるつもりであり、何らかの救済を求める気持ちも分からなくはない。だがその救済を求める先は、やはり制度を迷走させた国である。

 確かに、弁護士全てに余裕がある時代なら、理想のために身銭を切ることもできなくはなかった。仲間(谷間世代)の現実的救済のために自腹を切ることもできなくはなかっただろう。しかし、今はそうではない。昨今の新聞報道にあるように低所得の弁護士が大量に増加し、極めて苛酷な生活を送る者もいる。収入があがらずに税金の還付を受ける弁護士も、ここ7年間でほぼ倍増しているのだ(2008年と2015年の比較で11604人→19176人)。

 その状況で、理想のために身銭を切るという考えは、悪い言い方をすれば、収入が悪化しても生活水準を落とすことができないようなもので、破産に繋がる発想である。
 
 日本の人口は既に減少傾向にあり、裁判所に持ち込まれる事件も増える見込みも、今のところ全く見えない。

 執行部にはもっと身の丈にあった、弁護士会活動を行って欲しいと私は思っている。
 

 

 最後に一つ素朴な疑問がある。

 彼らの現実的な救済を本当に願うのであれば、弁護士会の財布をあてにせずとも、救済を願う有志で基金を作って谷間世代の返済に充当してあげればいいのだ。

 何故それをやらないのだろうか。

(この項終わり)