真夜中のドア~Stay With Me

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 おそらく有線放送だったのだろう。

 少し垢抜けない、どこかの商店街で、この曲を久しぶりに耳にした。曲を聞き逃したくなくて、私は歩調をゆっくりにし、そして、さびの部分を小さな声で曲に合わせて歌ってみた。

 昔、ラジカセを使って、カセットテープにラジオから録音(エアチェックといっていた)して、何度も聴いた曲だ。確かカセットテープは、TDKのものだった。

 歌っていたのは、「松原みき」さん。

 確かこれがデビュー曲で、彼女が歌ってCMに使われていた「ニートな午後3時」を、ご記憶の方も多いだろう。

 歌が素晴らしく上手で、とても綺麗な方だった。たしか、癌のためわずか44歳でこの世を去った。もう、10年以上も前に新聞に小さく載っていたような記憶がある。

 私はこの曲を聴くと、中学生の冬の夜を思い出す。

 霜焼けにやられた手を、椅子と太ももの間に挟んで温めながら、同じく霜焼けにやられた足を足温器に突っ込んで、ラジオを聞きながら勉強していた私。

 当時、なにか自分でもやれるのではないかという根拠のない自負と、得体の知れない未来へのボンヤリとした不安を、私は漠然と抱いていたように思う。

 何も知らず、意味もなく生意気だった当時の私は、なんでも分かったふりをしたがり、平均寿命まで生きるとしたら、あと60年も生きなければならないのか、などと少しため息をついてみたりしていたはずだ。

 何もかもが変わっていく中で未だに、何かが分かったという気持ちには到底なれそうにない。おそらく私は、このまま生きる意味や真理など何も分からずに、この世を去るのだろう、とも思う。

 

 しかし、この曲と松原みきさんの記憶は、彼女を知る人の心に、残り続けるのだろう。

 私も、そのように、人の心に残るような行いをなすことができるだろうか。