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損保会社の調査はこわい~7(私の経験から その3-3)

 

 

次に、損保側で報告書を書く専門家が、専門家とは思えない杜撰な論理展開で鑑定書を作成してくる場合もあります。

 損保が自作自演の放火であると主張してきた事例の中に、助燃剤として散布されたガソリン量を推定計算したという、A4で19ページにも及ぶ(株)○○○○鑑定センターの鑑定書が提出されたことがありました。

 その鑑定人は科捜研に専門研究員として勤務経験のある人でしたが、警察を定年退職した後に、火災・爆発事故などに関する調査を行う会社を設立し、経営してきた人でした。大学理系学部卒業の学歴も有し、平成18年以降だけでも、民事事件に鑑定人として関与し、勝訴した裁判例が50件以上あるとして事件番号もすべて自信たっぷりに開示してきた鑑定人でもありました。

 しかし、その鑑定人の採った、発火前のガソリン散布量の推定計算方法とは、あまりにも杜撰なものでした。

 単に、ガソリンの燃焼範囲(1.4~7.6vol%)からガソリンの蒸気量を推定計算し、ガソリンの蒸気が充満していたとの前提で、部屋の広さを掛け合わせただけで、ガソリン散布量を推定計算していたのです。
 このような計算方法を採用すれば、燃焼形態は一切無視され、部屋の広さの大小だけで散布したガソリン量が計算できることになります。
 つまり、少量のガソリンを撒いて火をつけ燃え広がった場合であろうが、床いっぱいにガソリンを撒いて火をつけた場合であろうが、部屋の大きさが同じであれば、同じ量のガソリンが存在していたという数値が算出されることになるのです。

 しかも、鑑定人の算出した計算値はものすごいものでした。わずか13m×9mの空間に約16ℓから約86ℓのガソリンが散布されていた、という途方もない計算をしてきたのです。

 これはもう、完全に裁判官を馬鹿にしているとしか思えない鑑定結果というほかありません。

 最低でも16リットル、最大で86リットルのガソリンに火をつけたらどうなるか、この鑑定人が知らないはずはないでしょう。だとすれば、考えられることはただ一つ、どうせ裁判所・裁判官・弁護士なんかは、細かいことはわかりゃしないんだから、損保が勝てる内容にしておけばいいんだ、という公正を旨とするはずの鑑定人の矜持すらなくした、損保(上得意)様への阿り(おもねり)です。

 このような、ずさんな鑑定を行う鑑定人であっても、平成18年以降、鑑定人として関与した事件のうち50件以上で勝訴しているということは、ある意味恐怖です。この鑑定人が、全ての事件で私たちの事件で出してきたような杜撰な鑑定書を出しているとは言いません。しかし、この鑑定人が行う鑑定は、少なくも鑑定人としての矜持を捨て去った鑑定人による鑑定なのです。上得意様におもねった可能性が高い鑑定書なのです。
 その鑑定人の鑑定書によって、本来救われるべき火災の被害者が、無念の涙をのまされ、本来支払われるべき保険金を支払ってもらえなかった事例が、きっとたくさんあるはずだ、と考えるほうが素直でしょう。

 私の経験から言えば、このような杜撰な鑑定書であっても、専門家が鑑定している以上、「計算が杜撰だ、おかしい」、と主張するだけでは、裁判官を説得しきることは、なかなか難しいのです。保険金を請求する側でも専門家に依頼して、専門家の鑑定に基づいて主張をしないと、なかなか裁判官は納得してくれません。しかし、火災に遭って焼け出された人に、それだけの余裕を持つ人がどれだけいるでしょうか。

 本来火災保険で救われるはずの人が救われない。そんな理不尽があっていいのでしょうか。

 極論すれば、保険というものは、賭け事のようなものです。保険を掛ける人は、自分の家が火災に遭うかもしれないという側にbetし、損保は保険を掛ける人の家が火災に遭わないという側にbetします。
 また掛金(保険料)の率は、損保が損をしない比率で設定することができます。いわば、損保が負けようのない賭け事です。それにも関わらず、賭けに負けた途端、牙をむき、相手を放火魔扱いして支払いを拒むなど許されるものではないと思います。
 その許されない行為に加担する、専門家を自認する鑑定人や調査会社も、厳しく糾弾される必要があるように私は思っています。

(続く)

 

大阪弁護士会所属  弁護士 坂野 真一
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