損保会社の調査はこわい~8(裁判例では損保の勝訴ばかり?)
現代では、コンピューターの発達により、判例検索がパソコンで可能になっています。おそらく多くの弁護士さんの事務所に導入されているはずなので、火災保険金を請求したが○○という理由で拒否されたという相談があった場合には、弁護士さんが判例検索ソフトで似たような事例を検索して、勝訴可能性があるかどうかについて、説明してくれる場合が多いと思います。
ところが、判例検索ソフトによって表示される裁判例は、圧倒的に損保側勝訴の事例が多いのです。
もちろん、訴訟になれば、お金に糸目をつけずに弁護士や専門家を多く投入し、ガチで戦ってくる損保の方が人員面でも証拠収集でも有利な面があることは否定できません。しかし、本当はもっと保険金請求者側が実質的に勝っている例があると私は考えています。
それならなぜ、判例ソフトには損保証書ばかりの裁判例が出ていて、保険金請求者側勝訴の判決がわずかしか出てこないのだ?というご指摘があるかもしれません。
理由は簡単です。
損保としては、この案件は負けそうだと判断すれば、いくらか支払って和解してしまうという手段があるからです。そうなれば裁判例として残りませんから、「○○損保が裁判で負けて保険金の払い渋りをしていたことが明らかになった」、などと報道されたり、ネットで騒がれる風評リスクもありません。
裁判官としても、和解であれば面倒な判決を書く必要がなくなるうえ、事件を一つ処理したことになります。判決になればどちらかが勝ち、どちらかが負けるので、負けたほうからさらに控訴されるなどして紛争がさらに継続する可能性もあります。控訴審で自分の書いた判決がひっくり返されることも裁判官としては嫌でしょうが、和解なら、争いがそこで終わるので、そのようなことも避けられます。裁判官としても和解で終わるなら大歓迎なのです。
保険金請求者としては、和解を勧める裁判官から、判決になれば1円も認められないかもしれませんよ、と説得を受ければ、「それでも判決を下さい!」と勇気を持って言える人はそう多くありません。
現実に判決を書く人から、判決になれば1円認められないかもしれないといわれることは、とてつもない恐怖です。不満だけども0円になるリスクは冒せない人が多いのです。なぜなら、保険金請求者は火災に遭って家を焼け出され、弁護士費用もようやく工面しているなど、経済的にとても追い込まれた状況にあることが多いからです。
和解した事例は、判決が出たわけではありませんから、裁判所の判断もなされておらず、当然裁判例としては残りません。
以上から、判決まで至ってしまうのは、損保が「まず勝てる」と考えていた事案ばかりだといってもいいのではないか、と思います。
ですから、裁判例を調査してみたところ、損保の勝訴事例ばかりだということであっても、その損保勝訴裁判例の多さは、必ずしも実態を表しているとは限らないと考えることができる、ということになります。
一度、弁護士さんに相談してみることが大事だと思います。
(この項終わり)
大阪弁護士会所属 弁護士 坂野 真一
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