刑の一部執行猶予制度について(その1)
2016年6月より刑の一部執行猶予制度が施行されています。
この制度は、覚せい剤の使用・所持などの薬物犯罪以外にも適用されるものですが、実際には9割以上が薬物犯罪に適用されていますので、以下、薬物犯罪を念頭に置いて説明します。
この制度は、例えば「懲役2年に処する。その刑の一部である懲役4月の執行を2年間猶予する」といったように、実刑部分の一部だけを執行猶予するというものです。
上の例の場合、懲役1年8か月は刑務所などで施設内収容を受けた上で釈放され(※仮釈放もあり得ます)、残り4か月については、執行猶予の取消しを受けることなく社会内で2年間を過ごせば、刑の執行を受けずに済むというものです。
全部実刑の場合よりも4か月早く刑務所を出られることから、依頼者からは全部実刑よりも軽い一部執行猶予判決を求めてほしいという要望が増えています。
しかし、実際には全部実刑よりも軽いといってよいかは微妙なところです。少なくとも裁判所は「実刑判決のバリエーションの一つにすぎない」と理解しており、全部実刑判決よりも軽いものとは考えていません。
なぜなら、上の例では釈放された後の2年間は、保護観察所による社会内処遇プログラムの受講を義務付けられるからです。
上記プログラムでは、保護司と月に2度程度面談することに加え、おおむね2週間~1月に一度の教育課程の受講を義務付けられ、さらに受講の度に簡易薬物検出検査(尿検査や唾液検査)を受けなければなりません(裁判所の裁量により保護観察を付けなくても良いケースもあり得ますが、薬物犯罪の場合、基本的には保護観察がつきます)。
プログラムの受講を拒否すれば一部執行猶予が取り消される可能性がありますし、簡易薬物検出検査で陽性となれば通報される可能性もあります。
上の例では、実刑期間1年8か月に加えて、2年間は保護観察所を通じた処遇を受けることとなるのです。つまり、3年8か月は公的機関による監視を受け続けることとなります。
これを軽いと考えるか重いと考えるかはその人次第でしょう。
一部執行猶予について「全部実刑より軽い」と漫然と考えている方もいますが、最低限上記のような制度内容は十分理解して頂かなければなりません。
私個人としては、釈放後にも保護観察所での社会内処遇プログラムによって薬物依存の解消を図る意思があるのであれば後押ししてあげたいですが、上記の説明をすると、長期の監視は受けたくないから一部執行猶予は求めないでほしいとおっしゃる方もいます。
次回は、一部執行猶予を求める場合にどのような立証をすべきかについて説明したいと思います。
大阪弁護士会所属 弁護士 永井 誠一郎
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