Blog ブログ

Blog

HOME//ブログ//定期建物賃貸借契約の説明義務~その3~国交省雛形を用いても安心できない

ブログ

定期建物賃貸借契約の説明義務~その3~国交省雛形を用いても安心できない

 

 

賃貸人が別個の書面で説明し、承諾書に賃借人が署名・押印したにもかかわらず無効となった事例(東京地判平成24年3月23日)を紹介します。

 

この事例では、将来的な耐震工事、改修工事の予定があった建物を、飲食店、生花店、雑貨店などの個人商店用に定期賃貸借しました。

作成された説明書、承諾書の内容は次のとおりです。少なくとも、国交省の雛形で求められる程度の説明は記載されていたといえるでしょう。







説明書


 この建物賃貸借契約が、法38条2項の規定に基づく定期建物賃貸借(いわゆる定期借家)契約である事を、この書面を交付して説明する。

ア この建物賃貸借契約では、法26条、28条及び29条1項の規定による契約の更新はない。

イ このため、契約期間満了(満了日〇年〇月〇日)によって、この建物賃貸借契約は終了する。

ウ 期間満了により、新たにこの建物の賃貸借に関する再契約が締結されない限り、この建物を明け渡さなければならない。

 

承諾書


  この契約による建物賃貸借は、定期建物賃貸借(いわゆる定期借家)であって、契約の更新はなく、契約期間満了によってこの建物賃貸借契約は終了する旨を記載した書面の交付を受けるとともに、口頭による説明を、この建物賃貸借契約の締結前に受けました。つきましては、この旨を承諾いたします。

○○年〇月〇日


借主氏名 ㊞




それでもなお、裁判所は次のように述べて更新がない旨の説明が不十分が判示したのです。


「説明書面を交付して行うべき説明は、締結される建物賃貸借契約が、一般的な建物賃貸借契約とは異なる類型の定期賃貸借契約であること、その特殊性は、法26条所定の法定更新の制度及び法28条所定の更新拒絶に正当事由を求める制度が排除されることにあるといった定期建物賃貸借という制度の少なくとも概要の説明と、その結果、当該賃貸借契約書体の契約期間の満了によって確定的に契約が終了することについて、相手方たる賃借人が理解してしかるべき程度の説明を要すると解される」「ところが、賃貸人担当者がしたのは、説明書の条項の読み上げにとどまり、条項の中身を説明するものではなく、仮に条項内の条文の内容を尋ねられたとしても、六法全書を読んで下さいといった対応をする程度のもので」「一般的な賃借人において、定期建物賃貸借契約という制度の概要を理解できるものとはいえ」ない。

 

この事例から得られる教訓は、国交省の書式通りに説明書を読み上げ、確認書にサインをしてもらうだけでは説明として不十分と判断されうるという点にあります。

口頭で詳しく説明しても言った言わないの争いになる可能性がありますので、賃貸人としては、読み上げる説明書に、一般の賃貸借契約とは異なること、異なる点(更新がないこと、正当な事由の有無にかかわらず更新されないこと、期間満了によって賃貸借契約が終了することなど)をあらかじめ追記しておくべきでしょう。

 

大阪弁護士会所属  弁護士 永井 誠一郎
SHARE
シェアする
[addtoany]

ブログ一覧