遺言のデジタル化と押印廃止:法制審議会の最新要綱案に見る実務の展望
【ご注意】本記事は、現在法制審議会で議論されている改正要綱案の内容を解説したものであり、現行の法律とは異なります。今後の国会審議等により内容が変更される可能性がある点にご留意ください。
はじめに
現在、法制審議会の民法(遺言関係)部会において、遺言制度のデジタル化に向けた具体的な要綱案の議論が進められています。2026年1月時点の部会資料(「民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案(案)」)によれば、これまでの自筆証書遺言や公正証書遺言に加え、デジタル技術を活用した新たな方式の導入が検討されています 。
今回の改正議論は、単にパソコンで遺言が書けるようになるというだけでなく、作成手続の利便性向上と真正性の確保をいかに両立させるかという点に主眼が置かれています。実務上注目すべき主要な変更点について整理します。
1. 新たな遺言方式「保管証書遺言」の創設
今回の改正で最も注目されるのが、普通の方式による遺言に新しく加わる「保管証書遺言」です 。
この制度をかみ砕いて説明すると、「PCやスマホで作成した遺言データを、法務局の担当官とオンラインで内容確認した上で、そのままデジタルで預かってもらう仕組み」と言えます 。
具体的には、以下の手順が検討されています。
・遺言者が、パソコン等で全文を記録したデータを作成し、電子署名などの措置を講じます 。
・法務局に対し、オンライン等で保管の申請を行います 。
・遺言書保管官の前で、遺言の全文を読み上げて(口述して)内容を確認します。この際、ウェブ会議等を利用してオンラインで手続を行うことも可能となる見込みです 。
・この遺言は、法務局で適切に保管されることで初めて効力が生じます 。
自書(手書き)の負担がなく、かつ法務局の関与により偽造や紛失のリスクを抑えられる点が大きなメリットです 。
2. 自筆証書遺言における「押印要件」の廃止
これまで自筆証書遺言では、全文・日付・氏名の自書に加えて「押印」が必須とされてきました。しかし今回の要綱案では、この押印要件を廃止する方針が示されています 。
・遺言書の本文だけでなく、財産目録の各葉への押印や、訂正箇所の押印も不要となります 。
・押印がなくなる代わりに、氏名の自書(署名)が、遺言が完成したことを示すより重要な証拠としての役割を担うことになります 。
形式的なミスで遺言が無効になってしまう悲劇を防ぐための、実務的にインパクトの大きい変更です。
3. 特別方式遺言(危急時遺言)のデジタル化
病状の急変や災害時など、通常の方式で遺言を作成できない場合のための「特別方式遺言」もデジタル化の方針が示されています。
・死の危険が迫った状況(死亡危急時遺言)において、証人一人以上の立ち会いのもと、遺言の内容を「録音および録画」して記録する方法が認められる見通しです 。
・船舶の遭難や大地震などの天災時には、録音・録画した記録をメール等で特定の者に「送信」することで、家庭裁判所の確認を経て有効とする仕組みも検討されています 。
4. 証人の欠格事由の拡大
単身高齢者の増加に伴い、相続人以外の者に対する遺贈の増加が見込まれる現状から、今回の改正案では、証人・立会人の欠格事由(不適格者)の範囲を拡大する議論がなされています 。
具体的には、受遺者(遺言で財産を受け取る人)の被用者(受遺者が法人の場合はその被用者及び役員)も原則として証人等になれないとする規律が検討されています 。
これは、受遺者側の関係者が関与することで、遺言の内容に不当な影響が及ぶことを防ぎ、手続の透明性を高める狙いがあります 。
おわりに
以上の通り、現在進められている議論は、遺言作成の心理的・物理的ハードルを下げつつ、デジタル化に伴う改ざんやなりすましのリスクを制度的に防ごうとするものです。
これらの改正案は、今後の国会審議等を経て詳細が確定していくことになります。
当事務所では、引き続きこれらの法改正の動向を注視し、実務への影響を精査してまいります。
遺言作成や相続対策をご検討の際は、最新の法制動向を踏まえたアドバイスが可能ですので、お気軽にご相談ください。
【ご注意】本記事は、現在法制審議会で議論されている改正要綱案の内容を解説したものであり、現行の法律とは異なります。今後の国会審議等により内容が変更される可能性がある点にご留意ください。
弁護士 永井誠一郎
シェアする